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池上遼一編

『信長』

スパイダーマン 池上遼一といえば、画力の素晴らしさにおいては日本漫画界の最高峰に位置すると目される巨匠である。元々映画館の看板制作等をしていたのだから、当然といえば当然という人もいるが、今や美大や漫画・アニメの専門学校卒の漫画家も少なくなく、そうした中で「矢張りこの人は画においては格が違う」と感じさせる物を持っているのは、天性の画の才能に他ならないだろう。 巨匠の初期の作品であるこの『スパイダーマン』は正に池上遼一が絵画芸術・美術の出身者である事を裏付けるものだ。 男組 雁屋哲・原作による波乱万丈の学園抗争漫画。荒唐無稽とも思える設定が少なくないのだが、ついつい読み進めてしまうのは、”熱い心”と巨匠の画故だろう。 男大空 これも雁屋哲の原作だが、主人公がやや明るいキャラの為、同じ学園抗争物ながら何処か爽やかな風が吹いている。 傷追い人 小池一夫･原作の名作で、アメフット選手として将来を有望視されながら、突如裏社会に身を投じる事になった主人公が、愛する者を次々と失いながらも最終的に米国の表社会の長官という要職に昇りつめる迄を描く。セックス、格闘、裏社会という要素は、池上漫画の定番といえるもので、それが遺憾なく発揮されている。面白いのは、池上漫画の殆どは自身で原作を行っている訳ではないのに、日本を代表する原作者の何人もが池上漫画の原作を行うにあたっては、同じ様な設定が多い事だ。若しかすると、著名原作者達のイメージの中で、池上氏の画力を最大限に生かすなら矢張りこれというイメージが固まっているのかも知れない。 舞 工藤かずや・原作による数奇な運命を背負った超能力少女の活躍を描いた作品。内容はそれ程よく憶えていないが、普段は幼ささえ残る少女・舞が、超能力を用いる時に見せる怜悧な目が印象的な作品であった。 クライング・フリーマン 原作は小池一夫。陶芸家から暗殺者への道を歩む事になった主人公の裏社会での活躍を描く。 信長 工藤かずや・原作の歴史物の名作。戦国の風雲児、織田信長を描いた作品は腐る程あるが、これはその中でも傑出した物だ。何といっても池上遼一の画の説得力の大きさがその要因で、工藤かずやも正に巨匠の画力を信じた原作を行っている。逆にいえば、池上遼一でなかったなら、この『信長』が世間的に高い評価を得る事はなかったものと思われる。 アピル 小池一夫の原作。新撰組にいた少年が、或る日偶然出会ったユダヤ人のヘボンと共に日本人のルーツを求めて旅するロマン。個人的にはもっと新撰組の活躍を描いて欲しかった。 サンクチュアリ 史村翔の原作。史村翔はもう一つのペンネーム・武論尊で爆発的人気作『北斗の拳』の原作を行っている。史村翔としては『ファントム無頼』などが知られているが、巨匠・池上遼一と組んだこの作品では、矢張りこの大家の画力を最大限に引き出す様心掛けている。池上遼一の画風は多くの漫画家に影響を与えたが、漫画原作者達にとっても、巨匠の画で描いて貰える事は最高の栄誉であるといえる。この作品では政治家とヤクザという表社会と裏社会の人間が各々の頂点を目指す姿を描いており、名作との評判が高い。 オデッセイ これも史村翔・原作の人気漫画。池上遼一の漫画は画が綺麗な一方で、似た様な内容の作品が多い為、時に記憶が混線して今一つ思い出せない物が存在するが、これもその一つで、近い内に漫画喫茶等で読み返して見たいと考えている。 ストレイン 異腹の兄弟の対決を描いた武論尊・原作の作品で、映画化もされた。真新しい面は感じないが、裏社会に生きる”男の美学”とバイオレンスを描かせたら、矢張り池上遼一の右に出る者はいないという事を再認識させられる作品である。 今日子 家田荘子・原作の復讐劇。女性原作者ならではの情念が感じられる。 ＨＥＡＴ 武論尊・原作のヤクザ漫画で、『サンクチュアリ』『ストレイン』等に劣らぬ人気を博した。 流月抄 数多い作品の殆どに原作者が存在する為、常にその画力のみが評価の対象になってきた巨匠・池上遼一が、珍しく自ら原作も行っている作品で、伝奇物の要素を持っている。しかし、これ迄の池上作品を特徴付けるセックスやバイオレンスは健在で、大きく違う様には感じさせない所が面白い。 覇〜ＬＯＡＤ〜 武論尊・原作の連載作品。倭人が劉備玄徳として中国で活躍するという武論尊版『三国志』。主人公が倭人である事で、邪馬台国との関わりなども描かれ、様々な人間ドラマが描かれ、池上氏の迫真の作画が読者を作品に引きずり込んで行く。『三国志演義』とは随分違う個所が少なくないが、これはこれと割り切らせてしまう説得力がある。流石巨匠同士の大作と称するべきだろう。