あだち充編

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あだち充編

『タッチ』

ああ青春の甲子園
高橋留美子と共に小学館きっての人気作家、あだち充。その初期の作品。野球と恋愛というあだち漫画の典型は既に垣間見る事が出来る。よく憶えてはいないが、確かオムニバス形式の作品で、甲子園を目指す各ストーリーの主人公とヒロインの関係を描いたものだったと思うが、後の作品に比べると地味な印象は拭えない。
夕陽よのぼれ
これも殆ど内容を憶えていない。漫画喫茶等でもこの作品や『ああ青春の甲子園』は置いていないという事が少なくない。そうした意味においては、あだち充フリークで興味があれば…という作品であるといえようか。
ナイン
『週刊少年サンデー』に掲載され、今でも佳品として愛されている作品。中学時代には陸上部で、しかも日本記録を樹立した少年が、一目惚れした少女の窮地を救う為、野球部に入部。彼女に求婚するライヴァルや、主人公に惚れている少女、その娘に惚れる少年…と、短いながら様々な恋愛模様が進行し、野球の方はまだおざなりの感がある事は否めないものの、読後の爽快感も含めて、決して忘れる事は出来ない作品であるといえる。
陽あたり良好
ドラマ化もアニメ化もされた一躍あだち充の名前を高めた名作。主人公とヒロインが一つ屋根の下で暮らすという設定は、高橋留美子と共に他の漫画やゲームなどに絶大な影響を齎した。決して長い作品ではないのだが、各登場人物の関係なども実に面白く、名作の名に恥じない。野球は『ナイン』同様恋愛の出汁程度だが。
みゆき
『タッチ』と共にあだち充作品中の最高峰を形成する。ゲームなどに与えた影響という意味では、こちらが上かも知れない。美人の同級生・鹿島みゆきに好意を抱きながら、可愛い上に血の繋がらない妹・若松みゆきと一つ屋根の下で暮らす主人公の心は２人の”みゆき”の間で揺れ動き、米映画史上に残る名作『卒業』の影響の濃いあまりに有名なラスト・シーンへと進んで行く。此処では野球等恋愛以外の要素は殆ど存在せず、微妙な恋愛模様が爽やかに描かれている。アニメも大人気を博した日本漫画史に残る名作の一つであるといえよう。
タッチ
アニメ化もされたあだち充最大の人気作。主人公・上杉達也、双生児の弟・和也、そして幼馴染の美少女・浅倉南の微妙な３角関係によるラヴ・コメディーとしてスタートするが、この作品の最大のポイントは上杉和也の死である。彼の存在は死して尚、達也や南に影響を与える。”上杉和也の兄”ではなく、”上杉達也”としての存在感を示す為、達也は敢えて和也と同じ”野球”という土俵でライヴァルとの戦いに身を投じる。この作品では野球にかなりウエイトがかけられているのもそれ故だ。進展しそうで中々進展しない南との関係も恋愛コメディーの典型であり、あだち充のエッセンスの総てが此処にあるといっても過言ではあるまい。
ラフ
学園ラヴコメ版『ロミオとジュリエット』的作品。主人公とヒロインは各々菓子屋の跡取りで、家同士は仇敵関係にある。主人公は競泳、ヒロインは飛び込みで各々水泳部に所属。やがて互いに惹かれ合う２人。勿論、あだち漫画故にすんなり恋愛が進行する筈もなく、様々な人間模様が何時もの如くのどかなタッチで描き出されていく。『タッチ』や『みゆき』などに比べると、どうしても全体的な印象という点ではやや弱い面があるものの、何処か『陽当たり良好！』を想起させる側面もあり、”あだち節”は健在である。
スローステップ
ヒロインがソフトボール、主人公がボクシング。これに様々な人間関係が絡み合っていくあだち充の定番といえる作品だが、まだ『タッチ』の影響が色濃く残っていた時代のせいか、殆ど評判にもならなかった。『ＫＡＴＳＵ』はこれの延長線上にあるといえる。
虹色とうがらし
コメディー時代劇。時の将軍が城を抜け出して各地でこしらえた７人の異母兄弟達。但し、その中には一人だけ本物の兄弟ではない者がいるという。やがて兄弟達は皆揃って各々の母親の墓参りをしつつ、父親の正体を突き止めようとする。一方、将軍を失脚させようという陰謀が進行しており、兄弟達も知らず知らずそれに巻き込まれていく。大詰めを迎えると、兄弟の中の唯一の女の子こそが血の繋がらない兄弟だという事が判明し、主人公と結ばれる事を暗示して終わるが、これは『みゆき』を思い出させる。最初はあだち作品としてはやや取っ付きにくい面があるかも知れないが、最後迄読むと充分あだち作品らしい爽快感が残る佳品だ。
いつも美空
超能力少年・少女達の活躍を描いた漫画。キーポイントとなるのは宮崎駿作品に登場しそうな化け猫。一寸メルヒェンティック、ファンタスティックな側面を持つが、きちんと”あだちワールド”に収めている所は流石というべきだろう。
Ｈ２
『タッチ』の爆発的成功で、暫くそれから後のあだち充の作品は今一つとの印象を一般的に持たれていた。あだち充はキャラクター・デザインもストーリーもワンパターンだと酷評する者もいた。しかし、『水戸黄門』或いはローリング・ストーンズなどその”型”に惹かれ、支持する者もいるのである。逆に、それが最大限に発揮されれば、ファンが戻ってくる。
それを証明したのが『Ｈ２』である。事実、この作品は『タッチ』以来の長編となり、アニメも人気を博した。内容はタッチ以上に野球に傾き、恋愛の要素も強化され、人によってはこの作品こそあだち充の最高傑作とする向きもある。ヒロと英雄、２人の”Ｈ（ヒーロー）”と２人のヒロインが演じる爽やかなラヴ・コメディーであり、見方によっては『みゆき』と『タッチ』の複合型であるともいえる。
野球の試合の面白さは文句なくこれが最高だ。野球漫画としても充分楽しめる内容になっていると思う。
ＫＡＴＳＵ
ボクシング漫画。『スローステップ』がより強化されたといえる。恋愛も相変わらずの”あだち節”で、ファンには堪らないだろう。ただ、話をもっと膨らませる事が出来るのに、何だか適当なところで手を打って終わらせてしまった感があり、残念だ。
クロスゲーム
現在連載中の野球漫画。矢張りあだち氏といえば野球漫画という人には嬉しい作品と言えるし、「またか」という人もいるだろう。ストーリーは『タッチ』の上杉兄弟と浅倉南を逆にした感じ。主人公と幼馴染の姉妹という設定になっている。『タッチ』と違う点はいきなり主人公に思いを寄せる娘が亡くなってしまう事だ。姉を慕うあまり、主人公を敵視している妹が生き残り、さあこれからどうなる……といった感じである。個人的には野球と恋愛は如何にもあだち氏らしいと思うが、そろそろサッカー漫画辺りに進出して欲しい気もする。