ジョン・レノン（ソロ）

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ジョン・レノン（ソロ）

ジョン・レノン

ジョンの魂
１９７０年１２月、世界を揺るがせ続けた不世出のグループ、ビートルズは遂に終焉を迎えた。しかし、既に人々は実質的にビートルズはビートルズとして活動していないという事を知っていた。何故なら、この年の３月にリンゴ、４月にはポール、１１月にはジョージ、そして１２月にはジョンが各々ソロ・アルバムを発表したからである。ジョンは既にビートルズ時代に幾つかソロ・アルバムを発表しているが、オノ・ヨーコとの実験的作品が多く、一般的にはこの『ジョンの魂』をソロ・アーティスト、ジョン・レノンの出発点と捉える向きが少なくない。実際、完成したアルバムは正に歴史的名作との評価を確立している。
この時期、ジョンは精神的に相当疲弊しており、プライマリ・スクリーム療法を受けていた。ジョンは苦しみを総て吐き出す事で、自己解決を図ろうと試みた。従って、このアルバムには一般的に親しみ易いというナンバーは見られない。心の傷を吐き出さんとするジョンの必死の魂の叫びが聴く者に深い感銘を刻む。有名なナンバーとしては「ラヴ」「マザー」「ワーキング・クラス・ヒーロー」等があるが、どの曲も忘れ難い印象を聴き手に与える傑作アルバムである事に間違いはない。第一曲が「マザー」で、ラストが「マイ・マミーズ・デッド」という構成も秀逸。
イマジン
ビートルズ時代を含め、ジョンの書いたナンバーの中でも最も有名なナンバーの一つで、今やジョンの代名詞的作品と目される「イマジン」が収録されている事で俄然有名なアルバムである。他にも「ジェラス・ガイ」等の美しいバラードがあるが、このアルバムを歴史的名盤たらしめているのは矢張り「イマジン」である事に間違いあるまい。因みにこの曲、多くのアーティストがカヴァーしているが、個人的にはエルトン・ジョンの物が忘れ難い。
サムタイム・イン・ニューヨーク・シティ
数々の社会問題を題材にした歌が多い為、放送禁止や発売禁止の措置が取られた国もあったという、いわくつきのアルバム。あまり有名な曲はないが、熱いスピリットが脈打っており、矢張りジョンならではの力作であるといえよう。また、ジョンのこうした姿勢が後世のアーティストに与えた影響は計り知れない。Ｕ２などはその典型であろう。
ヌートピア宣言
ビートルズ時代からヨーコの影響を受けて時折取り組んできた前衛的な内容を持つタイトル曲が印象的なアルバムである。此処では何の音も入っておらず、聴き手はひたすら目を閉じて瞑想しなければならない。そうした部分を抜きにしても、「マインド・ゲームス」を始め、ジョンらしい魅力に溢れたナンバーが揃っている。
心の壁、愛の橋
ジョンの最高傑作と評する向きの少なくない名作。シングルとしても大ヒットしたエルトン・ジョンとの共演で知られる「ホワットエヴァー・ゲッツ・ユー・スルー・ザ・ナイト」や、幻想的な「＃９ドリーム」等有名ナンバーは勿論、それ以外のナンバーも粒揃いで、この時期ジョンがヨーコと別れて自暴自棄の生活を送っていたとは信じられない内容になっている。尤も、それは音楽に限った事で、歌詞に目を転じると、当時の状況が窺い知れる作品が幾つかあるが。因みに、私なぞが語るまでもなく、ジョンは再びヨーコの許に帰るのである。
ロックン・ロール
ジョンは自作ではなく、彼の好みのスタンダード・ナンバーばかりを集めたアルバムを制作してみたいと考えていた。夢を実現する為、『ヌートピア宣言』制作後、プロデューサーにフィル・スペクターを起用し、このアルバムの制作に取り掛かっている。しかし、この時のセッションはトラブルが絶えず、結局『心の壁、愛の橋』完成後に新たに録音セッションが行われたという。そして、このアルバム発売後、ジョンは愛息子ショーン誕生を機に”ハウス・ハズバンド宣言”をし、有名な”空白の５年間”に入ってしまう。
ジョンの自作ではない為か、このアルバムの評価は決して高いものとはいえない。しかし、ビートルズ時代からジョンの採り上げるスタンダード・ナンバーはオリジナルを超えたと評する向きも少なくなく、このアルバムでもオリジナルにはない力強さや情熱を感じさせる曲が多い。ジョンの”歌手”としての個性が存分に示されており、決して忘れる事は出来ない。特に有名なのは「スタンド・バイ・ミー」で、オリジナルよりジョンのヴァージョンの方が好きだという人間も少なくない。
ジョン・レノンの軌跡
ビートルズ時代に結んだＥＭＩとの契約更新を行ったのはポールだけだった。その為、ＥＭＩから相次いでジョン、ジョージ、そしてリンゴのベスト・アルバムが発売された。ＥＭＩ時代のナンバーのみとはいえ、アルバム未収録のシングル、「平和を我等に」や「ハッピー・クリスマス（戦争は終わった）」「インスタント・カーマ」といったジョンを代表するナンバーがズラリと並び、聴き応えは充分にある。尤も、ジョンの場合、ビートルズ時代同様アルバムとしてのコンセプトを重視している事から、こうしたベスト盤よりアルバムを鑑賞した方がよりジョンの本質に触れられる事は確かだが。
ダブル・ファンタジー
愛する息子、ショーンに「パパは昔ビートルズだったの？」と問われ、５年振りに音楽活動を再開する事を決意したジョン。ゲフィン・レコードと新たに契約を交わし、プラスティック・オノ・バンドを従えて行われたセッション。正に再出発を告げる記念碑的アルバムとなったこのアルバムが、偉大なるジョン・レノンの遺作となってしまった。アルバムが発売されたのは１９８０年１１月。そしてジョンが凶弾に倒れるのが１２月８日……。
ジョンの久し振りのアルバムという事と、突然の死の齎した効果で、アルバムは全英・全米共に１位。シングル「スターティング・オーヴァー」と「ウーマン」も各々大ヒットを記録。内容的には、全体的に癒しのきいたサウンドが多く、まるでジョンが或る種の悟りの境地に達したかの様である。ジョンが尊敬してやまなかったエルヴィス・プレスリーを思わせる「スターティング・オーヴァー」と、柔らかい歌いっぷりが印象的な「ウーマン」「ビューティフル・ボーイ」等の魅力が矢張り大きいが、他の曲もジョンの復帰に賭ける思いが汲み取れ、何れも印象深い。ジョンの遺作だからというだけではなく、アルバム全体が何度聴いても深い感動を味わえる歴史的名盤である。
その他のアルバム
ジョンは既にビートルズ時代に『トゥー・ヴァージンズ』や『「未完成」作品第２番』を発表しているが、これらは実験的色彩が濃い為、今では殆ど聴く者はいないと言われている。
ライヴでは『平和の祈りをこめて』や１９８０年代半ばに発売された『ライヴ・イン・ニューヨーク・シティ』が知られている。
後、忘れてはならないのがボックス物。ＬＰ時代に発売された『ジョン・レノン・ボックス』は『ジョンの魂』から『ジョン・レノンの軌跡』迄のアルバムに、『平和の祈りをこめて』のＥＭＩに録音された合計８枚のアルバムが丸ごと収められており、ジョンの偉大さを証明している。ポールの場合、枚数が多過ぎるという事情もあろうが、ジョンだからこそこうした”全集”が発売されたのだとも言える。ＣＤでは『ジョン・レノン・アンソロジー』が大作で、１００曲近いナンバーが収録されている。
ベスト盤では嘗てＬＰで発売されていた『ジョン・レノンの軌跡』に『ダブル・ファンタジー』の収録曲を加えた様な『ジョン・レノン』が知られていた。これは後に「コールド・ターキー」等を加えてＣＤ化されているが、現在は『レノン・レジェンド』が最高のベスト盤とされる。何れにせよ、ビートルズもそうだが、アルバムがメインである事は確かにしても、シングルでしか発売されていないナンバーが少なくない為、ジョンのこのベスト盤の価値は矢張り高い。
他では『ロックン・ロール』未収録のナンバーを集めた『メンローヴ・アヴェニュー』や『ダブル・ファンタジー』未収録曲を集めた『ミルク＆ハニー』が有名だ。何れも一度は聴いておいて損はない。