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手塚治虫

鉄腕アトム

火の鳥 手塚治虫が日本漫画界史上最高最大の巨匠である事に異論を唱える者はおるまい。彼がいなければ、漫画がこれ程大衆と結び付き、支持される事はなかった。それ故にファンのみならず、多くの漫画家達も彼に神の如き尊敬を捧げ、別格的地位を保持し続けているのである。 その不滅の巨匠の作品中でも、最も高い評価を受けているのが『火の鳥』である。手塚治虫のライフワークとも称するべき大作であり、深遠さ、独創性共に比類がない。文学界の巨人、ゲーテの『ファウスト』が１９世紀の芸術家に与えた影響は絶大なものがあったが、『火の鳥』は漫画界における『ファウスト』的存在であると言えよう。もはや漫画という枠を超越しているのだ。それは文学であり、科学であり、哲学である。手塚治虫のエッセンスの総てが詰め込まれている。この様な漫画が書かれる事は二度とあるまい。 鉄腕アトム 内容の深遠さにおいて『火の鳥』は日本漫画史上の最高傑作と呼べるものであるが、大衆的人気において手塚治虫の代表作と言えるのは矢張り『鉄腕アトム』を挙げる事になろう。これも手塚らしい深いテーマが根底にあるが、そうした事を抜きにしても子供にも楽しめるエンターテインメント性を持つヒーロー物の古典である事がその理由である。 リボンの騎士 ディズニーの影響をダイレクトに感じさせる作品。ディズニーはよくグリム童話を題材に選んだが、この作品ではそうしたメルヒェンチックな世界観が魅力の一つとなっている。リヒャルト・シュトラウスのオペラ『薔薇の騎士』や宝塚歌劇団のミュージカルの影響も随所に感じる。画やコマ割は現代からすると古臭さを感じるが、内容の面白さは流石の逸品で、現代にこうした作品を手掛ける漫画家は皆無である。 ジャングル大帝 人間に育てられ、人語を解するライオンの子供レオが偉大なる父の跡を継ぎ、理想のジャングル建設を目指す。レオの服装はミッキーマウスのパロディーだろう。ここでは自然界と人間界の調和がテーマとして据えられており、時折やり過ぎの面はあるものの、『ライオンキング』の上を行く。 海のトリトン この作品においても自然界と人間界の調和が問題として提起されている。 ふしぎなメルモ アニメが有名だった作品。小さな少女がキャンディーを食べる事により変身し、様々な問題を解決していく。 三つ目が通る 三つ目族という超能力を有する一族の血を引く少年の物語。トレジャー・ハンター物の典型として人気があった。 ブラック・ジャック 医療物のパイオニア的存在。科学者としての手塚治虫が全開の作品で、後の「スーパードクターＫ」等にも絶大な影響を与えた。 ブッダ 伝記物の傑作として知られる。単なるカリスマの物語に終わらず、一人の人間としての生涯を描いた点が多くの共感を得ている要因だろう。 アドルフに告ぐ 手塚治虫晩年の傑作で、久々に”手塚ブーム”を巻き起こしたと言われる。第二次世界大戦を描いた作品は多々あるが、ドイツと日本双方からユダヤ人問題を採り上げた作品といえばこれしかあるまい。神戸に生まれたドイツ人の父と日本人の母を持つアドルフ・カウフマンとその友人のユダヤ人アドルフ・カミルの友情と破綻、そして憎悪がもう一人のアドルフ、即ちヒトラーの出生の秘密を軸に進行していく。語り部の峠も好い味を出している。何れにせよ、映画化しても、小説にしても充分名作になり得る内容の濃さは流石手塚治虫と言うべきだろう。 ベートーヴェン 巨匠の遺作。手塚治虫は音楽好きで知られたが、特にベートーヴェンの音楽や生涯に大きな共感を抱いていた様だ。こうした人物物は『ブッダ』もそうだが、漫画家の独創性という点には欠けるが、深い共感が内容の濃さを齎している点は否定出来まい。 最後に、今後も画の上手な漫画家や人気を博する漫画家は沢山登場するだろうが、内容的に手塚治虫程の独創性や深遠さを持つ巨匠が登場する事は皆無だと思われる。現在数ある漫画の多くは画がなければ存在し得ない。しかし手塚治虫の作品は画がなくとも優れた内容を持っている物が少なくない。それ故に、多くの漫画家や漫画は殆ど後世に残らないだろうが、手塚治虫は常に別格的存在として不滅の輝きを放ち続けるであろう。