レオポルド・ベーム ベームの父。グラーツ歌劇場の顧問弁護士であり、ハンス・リヒター、カール・ムック、フランツ・シャルクら当時の有名な音楽家と親交があった。根っからのワグネリアンであり、第一回のバイロイト音楽祭にも行った程であった。こういう父を持っていた為、少年時代からベームは音楽的に恵まれた環境に育ったと言える。 辻音楽師 当時は手回しオルガンやアコーディオンを人前で演奏して生計をたてる辻音楽師が結構いた。幼少時のベームは大変な母親っ子で、母親が外出しようとすると泣き出してしまった。困った母親が考えたのが、辻音楽師を家に呼ぶ事だった。幼いベームが音楽に興じている間に、母親は外での所用を済ませたのである。 大伯父 ベームの回想録によると、ベームには世に名を知られた大伯父が２人いたという。父方か母方かは述べていないが、１人はオペラ歌手で、幼少のベームに色々な歌を聞かせてくれたという。もう一人はオーストリア帝国の陸軍大臣を務めたそうで、後に第一次世界大戦でベームが徴兵された折の逸話が語られている。 ヴァイス先生 ベームは何人かの音楽教師に主にピアノを習ったが、その中で好ましい印象が語られているのがこの人。 マンディチェフスキー ブラームスの友人であり、音楽理論家として著名だったオイゼビウス・マンディチェフスキー。ベームが父から１年間のウィーン留学を許可して貰った折の師である。ベームに彼を紹介したのはフランツ・シャルク。シャルクといえばブルックナーの弟子で、ブルックナーと犬猿の仲だったブラームスの友人を紹介している点が面白い。何れにせよ、少年ベームがマンディチェフスキーから得たものは非常に大きいものであった。 ウィーン留学で体験した演奏家 ワインガルトナーの指揮するウィーン・フィルの演奏会がベームの一番印象に残っている様である。他ではカルーソーやカール・ブリアンら当時を代表する歌手達についても言及している。特にカルーソーについて「歌を聴く前は法外な入場料に憤慨したが、実際に歌を聴いた後は、彼の歌は幾ら入場料を払っても高過ぎるという事はない」という意味の事を述べて絶賛している。 第一次世界大戦 ベームも騎兵として徴兵されたが、馬に蹴られて重傷を負った事から、前線に回される事なく、除隊と成った。 ベームとスポーツ 晩年のベームからは想像もつかないが、少年時代のベームはスポーツにも興じていた。スキーや乗馬がお気に入りで、後のグラーツ歌劇場時代にはサッカーチームにも所属している。写真も残っている。晩年に比べるとずっとスマートで精悍な顔立ちのベームがそこにはいる。 グラーツ大学 少年時代のベームはピアニストを目指していたが、グラーツ歌劇場の弁護士という立場から多くの挫折した音楽青少年を見ている父が、保険の為に大学に通う事を勧めた。ベームも素直にそれに従い、法学を専攻。法学博士の学位を授けられた。レコードのジャケットなどに「Ｄｒ．」と表記されるのはその為だ。 ピアニスト・デビュー 実はベームはピアニストとしてのデビューを飾っていた。但し、可もなく不可もないといった程度の成功だった様だ。更なる研鑚を積めば若しかしたらピアニストとして生きていく事に成ったのかも知れないが、グラーツ歌劇場で練習指揮者のアルバイトを始めた事が、ベームの人生を大きく変えるのである。 作曲家ベーム マンディチェフスキーの薫陶を受けたベームは、作曲も行っている。マーラーやリヒャルト・シュトラウス、バーンスタインやブーレーズらは作曲家としても指揮者としても高い名声を獲得しているが、フルトヴェングラー、クレンペラー、フリッチャイらの様に作曲家としてはあまり評価されない指揮者も少なくない。ベームの場合には作曲は完全に「過去の思い出」で、演奏活動を行う様に成ると作曲はしなくなった。内容は歌が中心だった様だ。 グラーツ歌劇場 ピアノや作曲は学んだが、指揮を学んだ事のないベームは、最初色々な失敗をしでかした。生まれ持った才能と勤勉さでそれは克服されていったが、他にも微笑ましいエピソードがある。或る日パイプ・オルガンの伴奏を受け持つ事に成ったベームだが、それは一つの音を持続して鳴らすという退屈なものだった。その為ベームはペダルに煉瓦を乗せて女の子といちゃついていた所、その部分が終わってしまった。ベームが慌てて煉瓦を外しにいったが間に合わず、大目玉を食らったという。 最初の結婚 ベームの回想録では全く触れられていないが、この時期ベームは最初の結婚をしている。直ぐに別れた事からも若気の至りであった事は明白だ。評伝等でも軽く触れる程度のもので、ベームの人生に何の影響もない結婚であった。 昇進 全く指揮を知らなかったベームだが、生まれ持った資質と努力によって、遂にグラーツ歌劇場の総監督の座が約束された。しかしカール・ムックやブルーノ・ワルターとの出会いがそれを蹴らせる事に成る。その為、当時のグラーツは大変な騒ぎに成ったらしい。